生気を与えてくれる雨

カオハガンには日本のような、春夏秋冬といったはっきりとした季節はない。島民たちと暮らして、私が感じていた季節は、4月、5月が乾季で 雨が降らない。風も少し弱くなる。6月から3月までが雨季で、雨が降るといった感じの季節だ。南の国というとわれわれがすぐに感じる、ものすごいスコール。カオハガンではそんな激しい雨は降らないし、年間の総雨量も、2,000ミリちょっとで、日本よりすこし少ないくらいなのだ。
そんな季節感の中で、私は25年間を過ごしてきたが、雨が降らないなあと不快を感じたことは今まで一度もなかった。
今年は、私は1月の末から日本に仕事で帰り、2月の半ばに戻ってきたが、それから一滴も雨が降っていない。はじめは何も感じなかったが、4月の半ばころから、雨の降らないことの不便さをひしひしと感じるようになってきた。
カオハガンには、もちろん水道は引かれていない。皆が、砂を盛り上げて、その表面にコンクリートをベタベタと塗り、固め、それを二つ重ねて創った水甕に、屋根から引いたとよを通して、雨を溜めて、生活用水として使っている。
一度日本から来た化学の先生に調べてもらったことがあるが、カオハガンの雨水は、日本の水道の水より、化学的にはきれいなのだそうだ。
飲み水、料理、洗濯など、生活のすべてに使う水に、この溜め水を使うのだ。はじめは、私たちもその水をそのまま飲んでいたが、途中から、飲む水はペットボトルに入った水を買ってきて飲むようになった。島民たちも、最近では皆が買ってきた水を飲むようになっている。しかし、その他の生活用水は、すべて雨水に頼っている。したがって、ずっと雨が降らないということは、暮らしに使うすべての水を買ってこなければならないということだ。
島に来た当事調べたのだが、大きな島では、島の地面とその下の海水の間に真水の層があって、井戸を掘ると真水が出るのだそうだ。が、カオハガンや、周りの小さな島々では、真水がまったく出ない。だから、近くの大きな島、マクタン島まで行って、水道の水を買わなければならない。20リットルの容器一杯の水が5ペソくらい(約15円)なのだが、約一時間海を渡って買ってこなければならない。ガソリン代などを含めると、けっこうなお金になってしまう。
私たちの「カオハガン・ハウス」でも、一日毎ぐらいに大きな船を出して20リットルの容器に、100杯以上の水を買ってくる。それでも時々足りなくなって、お客様にご迷惑をおかけしてしまう。

それから、雨がずっと降らないと、サンダルを履いて島の中を歩くと、土埃で、もう足が真っ黒になってしまうのだ。この汚れがとても不愉快なのだ。
「早く、雨を降らせてください」。一ヶ月ほど前からは、手を合わせて、毎日、カミに祈るようになった。
島を覆っている木々は、少しいきいきとした緑が失われてきた感じもするが、まだまだしっかりと生きているようだ。たくましい。カオハガンのような地面の下に真水の層のない小さな島に、自然に生えている植物は、もともと、そのような性質を持った植物に限られているようなのだ。
聞いた話では、根が深く伸びるのではなく、横に広がるように伸びている木が多いのだそうだ。そんななかで、ココ椰子が、南の島にもっとも適した植物のようだ。 そんな植物たちも、だんだんと生気を失ってきているようだ。そうして、海岸に生えていた、わりと大切にしていたノニの木が、ついに枯れてしまった。
「おおーい!頼むよ!降ってくれ!」。

ゴールデン。ウイークも終わってお客さんが少なくなった、5月8日。朝9時半ころから、いつものように西側に300メートルほど行った、海岸に面した私のオフィースで仕事をしていた。しばらくしたら、何か激しい風が東の方から吹いてきた。網戸がガタガタと音を立て始め、落ち葉が、網戸にたくさんくっついてきた。そうしたら、ボツボツと雨粒が落ちはじめ、ザアーーと雨が降り始めたのだ。
「ウワーうれしい」。何か、しばらくはその気持ち良さに感動して、ボーッとしてしまった。そして、オフィースを出て、しばらく、海岸沿いの雨の中に突っ立っていた。けっこうビショビショに濡れてしまったが、ああ、気持ちが良い。「ありがとうございます」。周りの植物が、何か、雨にぬれて生気を取り戻したようだ。自然ってすごいなあ、すべての植物に、平等に生気を与えてしまうのだ。
30分くらいかな、雨も風もまたすっかりと止んでしまった。しかし気分が爽快だ。うきうきとしてまた仕事を続け、昼食のため、母屋に歩いて帰った。オフィースを出た小道には、かなり大きな陸ヤドカリたちで溢れている。水分を吸いに藪の中から出てきたのだろうか。
オフィースに戻って、汚れていた足を洗ってから、食事の前に、東側の砂州まで歩いて行って、打ち合わせをしてから戻ってきた。足が、まったく汚れていないのだ。

2016年4月21日
崎山 克彦

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